其ノ六

家庭の影響でかなり偏った食生活をしていた私が、様々な食べ物を食べられるようになったのは、学校を卒業し社会に出てからのことでした。
私の場合、卒業と同時に広島で一人暮らしを始めたのですが、普通ならこのようなパターンはもっとも偏食が進む典型でしょう。私の場合も例外ではありません。いつも外食できるほどの稼ぎもありません。最初はご飯に佃煮とかレトルトカレー(広島で初めてレトルトカレーなるものを食しました)、菓子パンばかり食べていたのです。“デンプン生活”は今までと変わりありません。
これだけ沢山糖質をとれば、今なら確実に糖尿病になるところですが、若さもあったでしょう、何と言っても運動量は今と比べて断然に多かったということもあると思います。

広島で一人暮らしを始めて二ヶ月くらい経った頃、その後私の妻となる女性と付き合うことになったのです。
彼女と付き合うことで私の食生活は一変しました。
彼女の実家はいろんな商売や建築業を手広くしていて、とても裕福な家庭でした。食生活も私の家とは比べものにならないほど豊かなものでした。身につけるものも高級品ばかり。

デートの時、二人でよく外食もしました。
待ち合わせは決まって広島本通り商店街にある“アンデルセン”一階のベンチ。
この店は全国的に有名な店で、ご存知の方も多いと思います。私にとってはそれまで見たことがないようなヨーロッパ食材、洋酒、パンが所せましとならんでいます。レストランも珍しくて美味しいものが安くて食べることができ私のお気に入りで、今でも広島に行けば必ず寄ります。
また広島にいた時は、この店でロビーでのカルテット演奏や、併設されている結婚式場での演奏を毎週レギュラーで弾かせていただき、とても助かりました。私にとってはとても思い出深い場所です。
この店で私は初めて洋食といえる物を食べました。
当然のことですが、好き嫌いを無くすにはやはり良い食材を美味しく調理された物を食べるのが一番ですね!
この店では初めての物も何の抵抗もなく美味しく食べることができました。
アンデルセンは昔、一階から二階まで吹き抜けになっていて、音響も良くとても雰囲気がありました。原爆による被爆建物の残された貴重な一つです。
近々建て替えられるそうです。老朽化ということもあるのでしょう。寂しいことですが仕方がないことです。広島に行かれる折には是非お立ち寄りください。
というわけで、元々料理の得意な妻はいろんな美味しい店を連れ回してくれましたし、時々私のアパートにも食事を作りに来てくれるようにもなりました。お陰で私の好き嫌いはどんどん無くなっていったのです。