◎ 2 “走る”  続き

そんな時の対処法は?メトロノームを使う。それでは余りにも芸がなさすぎます。メトロノームに合わせて弾くとその時は確かに自分のリズムの取り方の特徴がわかりますが、メトロノームを外してしまえば元に戻ってしまいます。テンポ感の悪い人へのメトロノームの使用は対症療法でしかないのです。根本的な問題は改善しません。

走る傾向がある人の演奏、特に曲の出だし部分を観察していますと、必ずと言って良いほど、しっかりとブレスつまり息が取れていないという事がほとんどだということに気がつきます。つまり上げ拍が取れていないのです。
急がば廻れ、面倒ですがテンポ感を改善させるのにはブレスの練習をするのが最も早道でしょう。

大抵このような人のテンポの取り方は四拍子なら1、2、3、4(あるいは1、1、1、1)というような感じになります。見てわかると思いますが、このなかには下げ拍ばかりで息を吸う上げ拍はありません。1とぉ2とぉ…の“とぉ”、つまりアップビートが無いわけです。欧米の音楽の先生や指揮者は必ずアップビートを強調してリズムを取らせます。アップビートの無いジャズなど想像できるでしょうか?アップビートがちゃんと取れているからアドリブでどんなにメロディーを崩しても生き生きとしたテンポ感やリズム感は失われないのです。
まずゆっくりと息を吸って呼くという基本動作を確認しなければなりません。呼吸が安定すれば精神も共に安定するのではないでしょうか。“あがり”から来る焦りの問題も解決できるはずです。

実際の方法として1とー2とーというように“とー”の部分、アップビートつまり息を吸う部分を意識し、ぎりぎりまで長めに取る練習をします。足を使っても結構です。息に合わせて踵から先を上下させます。息と体の動きを同調させる事によってよりテンポ感を身体全体に取り込むことができるはずです。
ただし、演奏中足は動かさないようにしましょう。靴の中で親指だけを動かす程度がベストです。オーケストラなどアンサンブルで足でテンポを取ろうものなら、周りから大ひんしゅくを買ってしまうでしょう。
この方法で呼吸の練習をした後もう一度楽器を弾いてみましょう。少しは落ち着いたテンポで弾けているはずです。
すでに上手に弾けている人もブレスを再度確認するだけで、もうひとランク上の演奏を目指すことができるでしょう。

終わり