◎ 先日のブログでは初見演奏について私なりの考えを述べさせていただきました。
それに関する追加として今日は聴音について考えてみたいと思います。

聴音とは何かといいますと、初見演奏と同じく重要な音楽の基礎訓練つまりソルフェージュの一環として訓練されますが、普通はピアノなどの鍵盤楽器を使って演奏し、その音を楽譜に書き取らせるというものです。
一般的には将来音大や芸大を目指す学生が早い段階(入試の直前に始めても全く間に合いません)で訓練を始めますが、理想的には音楽をやるすべての人(たとえアマチュアであっても)が簡単なレベルであっても少しは経験するべきでしょう。

初歩の段階では講師はピアノで簡単なメロディー弾き、生徒はそれを楽譜に書き取ります。演奏を記憶させ、後で楽譜にするという方法もあります。
慣れてくるにしたがってメロディーやリズムが複雑になっていき、さらに習熟度が増すと、メロディーが2声や3声、更には4声へと増え 時には弦楽器や管楽器など他の楽器を使ったりもしますが、この辺りまでくるとかなりの上級者です。

この聴音と言われる訓練も初見と同じく音楽家にとっては大切な訓練です。特にオーケストラにおいてすべての楽器の音を聞き取る必要がある指揮者には優れた聴音の能力が求められます。
指揮者だけでなく歌や弦楽器でも管楽器でもこれから弾こうとする音程は自分で作り出さなければならず、耳で聴いてもその音程が何であるかを把握できなければなりません。そのうえで聴音の能力も絶対必要になってくるのです。
この時、問題となるのは音の高さではなくあくまでも音と音との隔たり、つまり音程であり、音の高さをいくら正確に言い当てても何の意味もありません。

聴音と同時に前にも説明した初見の優れた能力とを兼ね備えることができれば音楽家としては非常に強力な武器となることでしょう。

そこで聴音の練習を行ううえで重要なことがあります。
まず聴音では演奏を書き取るため、演奏がとても音楽的に美しく正確であることが求められます。
聴音の問題を弾く演奏者には優れた演奏テクニックが要求されるのです。
しかし現在、音楽教室や音大などの聴音の授業で演奏する講師の演奏を聴いているとあまりの酷さに驚くことがあります。リズムの躍動感もなく単なる音の羅列であることがほとんど。ほんとに何を弾いているのか解らないことも。私もそんな酷い聴音で苦しめられました。あれで楽譜に書き取れという方が間違っています。あえて酷い演奏を感性で補って書き取れとでも言うのでしょうか?特に豊かな音楽性を持つ生徒には不快であり苦痛でしかありません。
もし聞き取ることができなければ、演奏のまずさが問題になることはなく、書き取ることができなかった方のミスばかりが問題となるのですから。
ただの音当てクイズではなく演奏者の方も受験者の音楽性を導き出すような演奏を心掛けて欲しいものです。
あくまで私の理想ですが、聴音の課題は音がより人の声に近くどんな非音楽的なメロディーでも意味あるメロディーになりやすいチェロで行うのが最良だと思います。(普通の音楽教室では困難でしょうが、音大なら簡単に実現できるはずです)

ピアノでは音楽的に聴音の課題を弾くのはあまりにも困難すぎます。どうしても音の羅列にならざるを得ません。そんな意味のない課題を書き取ってもあまり意味があるとは思えません。それこそただの音当てクイズです。聴くことは創造することにも繋がるのです。

ところで、私もレッスンの時、特に年齢が低い生徒には聴音紛いのことをやらせています。もちろん私のチェロの音を聞き取らせます。
簡単なメロディーを聞き取ったり時には記憶させた後で書き取ったり、楽譜に慣れさせるうえでもとても有意義です。
弦楽器は自分で音程を作りだす必要があるため音程を覚える必要があります。この方法だと音に対する注意力が増し、指板にテープを張ったり印を付けるよりも遥かにしっかりした音程感覚が育ちます。