初めてのチェロ

無事、大阪音楽大学附属音楽高校に入学し冷静さを取り戻した私の心には、以前からやりたかったチェロのことが再び頭をもたげ始めてきました。
その頃は今のようにインターネットなど無い時代、チェロの先生を探すことなど簡単なことではありません。そんな時、たまたま“関西音楽新聞”という新聞を見ていると、一件だけチェロ教室の広告が出ているのが目に留まりました。池田弥生先生という女性の先生です。早速池田先生の尼崎の教室にうかがい、念願のチェロを習うことになりました。
人生最初のチェロはドイツ製カール・ヘフナーの一番安いチェロ。横板は合板で出来ていて、今から思うと大変な安物。弓もブラジルウッドで腰がなくグニャグニャです。

それでも今まで体験したことがないG線の身体から振動するような音、その音には心底からシビレました。
これぞ自分が求めていた音!その震えるような感動は今でもはっきり覚えています。
初めての自分のチェロです。楽器は大切にしました。

とにかくやっとの思いでチェロに出会うことが出来たのです。
その頃、練習させられた曲は例によってヴェルナーチェロ教則本。この本の退屈さには苦しめられました。
いまでも私の生徒にはヴェルナーはやらせませんが、その時の苦しい記憶がトラウマになっているのかも知れません。
とにかくこの本さえ終われば楽しい曲が待っている、という儚い希望を抱きただひたすら練習しました。
自分で弾けそうな楽譜を勝手に買ってきて弾いたりもしました。

ついにヴェルナー教則本が終わりました。

嗚呼、それなのに!何と次に渡されたのはさらにウェルナーの2巻目だったのです。この時この教則本に2巻目があることを初めて知りました。この巻は更に難しく(とにかく意味なく難しいのです)、心は折れ、まさにショック。その教則本にはピアノ伴奏もあるはずなのにそれが楽譜には付いていないのです(伴奏譜は最近になって出版されました)。しかしこの教則本の洗礼にも堪え、死に物狂いで練習しました。とにかく今憧れのチェロを弾いている、ただその喜びだけで練習に堪えることが出来たのかも知れません。