◎5 第二楽章

第七交響曲でリズムの躍動感や有機性を追求してきたベートーベンはこの作品で一つの解答を得ました。
私が思うにベートーベンはこの楽章を一つの身体として捉え、それぞれの小節は細胞であり、その細胞の働きを司っているのは人(ベートーベンと演奏者)の意識、と捉えていたのではないかと思えてしかたがないのです。この曲は意識が織り成す一つの生命体なのです。これほどいわゆる一般的な意味で音楽として捉えることが困難な曲は他にないでしょう。
音楽の範疇を遥かに超越してしまっています。
ベートーベンに憧れ、第九も何度も指揮したことがある、リヒァルト ヴァーグナー。 彼も第九には圧倒され影響を受けた作曲家の一人でした。
彼はその楽劇《ニーベルングの指輪》のニーベルング族のテーマに第九の第二楽章のリズムをそのまま使いました。(パクったとは言いませんが、強い影響を受けたのは確かでしょう)。劇中のアルベリヒやミーメの狡猾さは表現することはできましたが、第九のように神経細胞が複雑に絡み合う一つの生命体を作り上げたベートーベンの世界とは程遠いものでした。