実践編 2

それでは具体的にどのように自分を冷静に見つめていけばいいのか、例をあげてお話しします。
私のよく行う方法は、演奏の前から自分の行動、さらには精神状況をレポーターのように心のなかで実況放送するのです。心の中で話します。本番前、誰もいなければ実際に声をだしても結構です。
たとえば「ただいまステージ衣装に着替えております。あと本番まで30分、緊張しております! あっ、チェロをケースから取り出しました。ライトが明るくなりました。ステージに向かっております!」。実際に演奏が始まる直前はまず最初のフレーズを思い浮かべます、もしそれでも緊張が増して来たら「あっ!手が震えております。おや、膝まで震えてますね。きょうの膝ビブラートは最高だぁ!」
こんな感じで心の片隅でやります。しかし音楽的に最善のものを目指すことがまず大切ですから、あくまで気持ちは音楽に。
もし仮にあがって演奏をミスしたとしても、それは過ぎ去ったこと、すぐに忘れましょう。しまった!などとこだわっていると後々もっと悲惨なことになります。
それから間違っても、よく言われる“落ち着け、落ち着け!”とか“大丈夫、できる!”とかは考えない方がいいですね。これで落ち着くことはまずありません。とにかく“何が起こっても放っておくのです。”
あがってしまうと気持ちが舞い上がってしまい、今やっていることの先の方まで見通せなくなるものです。とにかく1音1音、紡いでいくように一歩ずつ歩を進めます。すると不思議と冷静さを取り戻している自分に気がつくはずです。
このように冷静に自分を観察できれば音楽以外にも人生のあらゆる窮地に立たされた時で、少しは楽に切り抜けることができるかも知れません。