◎其ノ一
先日お話しした、スケール(音階)の練習方法について、もう少し詳しく説明してみたいと思います。
前にも申し上げたように、スケール(音階)には半音が二ヶ所あります。そしてそのことが人類全ての本能に感応する要因ともなり、西洋音楽がここまで発展させた原動力にもなったのです。
音階が誰かの発明品ではなく、元々自然界に普遍的に存在する現象そのものに気が付き、非常に長い年月を経て系統立て整理させていった人類の祖先の知恵には脱帽させられます。
西洋音楽の大元であり基礎ともなった人類の英知である音階(スケール)をいかに音楽的に美しく正しく弾くか、これは各演奏家の資質を問われる重要な課題でもあります。決しておろそかにしてはいけません。
まず、長短30の調性からなる音階には全て異なる性格があります。
それらを探求する前に、もっと初歩の段階として音階とは何かということを探ってみたいと思います。
日頃何気なく使うドレミファソラシドですが、それは一体何か、と聞かれますと、それは考えれば考えるほど説明のしようがなく捕え所なく不思議なものだということが実感させられます。
それでも確かに言えることは、調性にはそれぞれ個性があるように、音階にもそれぞれストーリーがあるということです。各音にはそれぞれ配役があり、それぞれ性格や指命があるということ。そこには世界があるとも言えます。
前回にお話しした。山を登ることに例えた話もそうですが、もっと簡単で幼稚な例で説明してみますと…ハ長調でいえば、ドの音が何でも知っている偉いおじいちゃん、ソの音がお父さんです。ファがお母さんで、お母さんとお父さんのファとソはいつも協力しながら一家を支え合っています。ミはお母さんにベッタリの甘えん坊の次男、時には音階という家族を支える重要な役割を果たします。いつもベッタリ、おじいちゃん子である娘のシも いざという時は家族のためにしっかり働きます。
また家族それぞれにスポットライトを当てることで、また違ったドラマに発展することもあります。どの音も個性を持ち、しっかり協力し合いながら音階という家族を作っています。孤独な人は一人もいません(その家族の絆を断ち切ったのがシェーンベルクに端を発する12音階技法で、音階にあるオクターブ12音全ての音を同等、均等に扱います。もしかして彼は伝統的な音階、ドレミファ…とは単なる音の階段と捉らえていたのかも知れません)。
こんな稚拙なイメージでも、いろいろなイメージを頭に描きながら音階を練習すると音楽の世界観が変わり、もっと自分が演奏する音楽に奥行感が出てくるでしょう。実際の音楽作品に応用すれば音楽がもっと生き生きしてくると思います。
その意味で、音階にはひとつの世界が存在するとも言えます。
前にも言いましたが、音階は音の見本ではなく、音の羅列になってはいけません。
それぞれ役割や立場があり、いつも生きていなければなりません。この世の現象にはすべて存在する意味があり役割があるのです。
もう少し考えを進めてみましょう。
つづく
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