◎其ノ六
続、ボウイングを考える

レッスン 2 

そこで必要なのはやはり何といっても“息”つまり“呼吸”です。
私のレッスンでは生徒が楽器を構えるときにいかにして無理のない呼吸ができるかを模索します。

バイオリンを弾いている人で特にあまり上手でない人や初心者の子供の演奏姿を見ていると、左腕が下がり過ぎて楽器が身体の中心に来ている人をよく目にします。これでは左腕で左胸を圧迫してしまい息が浅くなり苦しくなってしまうだけでなく右腕も真っすぐ真横に動かせることが難しくなってしまいます。
これを左肩の方で構えるようにアドバイスするだけで、上体が解放され、ボウイングもとても伸びが出て楽になることをよく見受けました。
前期バロックの時代バイオリンは左胸で構えていました。当時の弓は今の弓に比べるととても短かったのでそれでも事足りたのでしょう。しかしそれでも楽器を左胸で構えるのには無理があるということを当時の人も気がついていたのでしょう。心臓を圧迫して呼吸が困難になります。それが原因かどうかはわかりませんが、時代が下るにつれて楽器は鎖骨に乗せて構えるようになりました。ジェミニアーニの肖像画を見るとバイオリンを鎖骨の上に乗せて弾いているのがわかります。これでボーイングは楽になり音にも伸びが出てきたことでしょう。
さらに時代は下り楽器は顎で支えるようになりました。
よく顎に楽器を挟んでで弾くようになったのは左手で色々なポジションを使うようになったためと言われることが多いですが、そうではなくて私はボウイングの自由さやしなやかさを追求するためだったと思います。結果として短くて堅い弓から長くてしなやかな弓に取って代わっていったのだと思います。

つづく