◎ 2 使い勝手の悪い原典版
原典版が演奏にとっては最高の救世主になることは確かなことですが、使用する上で気をつけなければならない問題もあります。
まず重要なことは、いくら原典版といえども全てが作曲者の考えが純粋に反映された物ではないことを理解することです。
とにかく色々な資料をひとつの楽譜に盛り込む訳ですから、楽譜がとても繁雑になり読みづらくなるという傾向があります。もちろん校訂者の個人的な考えも大いに反映されます。
出版社によっても編集の方法は全く異なってきます。字体を変えたり括弧を書いたり、点線にしたり、また注釈が多過ぎるというのも楽譜を読みづらくする原因になります。編集方法をまず理解することが大切です。
ベーレンライターのモーツァルト新全集のようにスコアとパート譜の内容が異なる場合もあります。パート譜の方は全てのデータを断りなく譜面に印刷してしまっているので必ずスコアを参考に演奏者が独自に修正していく作業が必要になってきます。
中には原典には存在しない校訂者の個人的な考えが多く入り込んだ原典版も多く存在します。校訂者に演奏家も加わっていることがほとんどで、ボウイングや指番号が細かく書き込まれていることが多く楽譜の読みづらさにさらに拍車をかけているのが現状です。
最終的に、どの資料を取捨選択するかは各演奏者に任されており、自分だけの楽譜を作り上げる必要があるのです。極端な例では、比較的最近出版されたベーレンライター版によるバッハ無伴奏チェロ組曲の新全集。これなどスラーなどが全く書かれていない一冊の楽譜プラス五つの写譜や初版の楽譜を含む資料がセットになっていて、それらを元に何も書かれていない方の楽譜に自分の考えを書き込んでいく。つまり自分のオリジナルの楽譜を作って下さいという主旨で出版されているのです。究極の原典版の姿でしょう。
しかしこの方法は短い曲やチェロ組曲のように編成の小さな物なら可能ですが大編成の作品となるとまず不可能でしょう。いずれにしろ楽譜を自分で作るなど面倒な話です。
これには音楽的経験も必要ですし初心者を原典版離れにする危険性も大いにあると思います。
研究には良いかも知れませんが実用的に使うのには手間がかかり過ぎます。
そこで私の提案ですが、まず基本的に一冊の楽譜には原典の資料を一つだけにすれば良いと思うのです。例えばオリジナルの自筆譜による原典版とか初版の楽譜による原典版とか。これで取捨選択の迷いからは少なからず脱却できるのではないでしょうか。後は各自の好みでその他の資料のデータを取り入れていけば良いと思うのです。
終わり
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