1 “走る”

演奏中にテンポがだんだん速くなる、又は曲の始めから意味なく速い(速くしか弾けない)、ゆったりとした曲調の曲を演奏する時、音と音との間隔が狭くなり間がもたなくなってどんどん早くなる、こんな人はアマチュアは勿論、程度の差はあれプロのプレイヤーにも多々見られます。

その原因は何かと観察してみるといくつか考えられることがあります。

まずは、その人が持つ性格によることが結構多いものです。
“走る”癖のある人は大抵せっかちな人が多いものです。又はすぐに興奮して舞い上がり我を忘れるタイプの人、俗に言う“テンパる”癖がある人も突っ走る傾向にあります。
つまり心に余裕がないのです。
肯定的に考えればクライマックスの素晴らしさを一刻も早く味わいたいという気持ちから来る、やむにやまれぬ期待感とも考えられます。
どちらにせよ冷静に観察すると、走ってしまう時は大抵気持ちだけが無意味に先に行ってしまっている場合がほとんどで、それにテクニックがついていかないからつい滑ってしまうのです。いつもお尻に火がついている。あるいは気持ちとテクニックが空回りしているとも言えます。
勿論、音楽的に雰囲気が前向きに感じられる所で、ある程度走り気味になることはそんなには問題にはならないものです。むしろ前向きな部分の後には必ず安定期があるので、その部分でたっぷり時間をかけて弾けば走った分が相殺されますし音楽的にも効果的です。しかし、音楽が落ち着くべき所で走ってしまうととても目立ちますし、聞かされる方の気持ちとしては不安になりとても不愉快です。表現としても失敗です。
もうひとつ考えられるのは、やはり“あがり”ということも関係しているでしょう。
その辺りのことを少し考えてみましょう。

続く