アップとダウン、これは弓遣いに於ける上げ弓と下げ弓のことです。
ボウイングともいいます。

ボウイングは生き物の呼吸そのものです。
単純に言うとアップは息を吸う、ダウンは息を吐くこと。
楽器の演奏で呼吸が目に見える形として演奏に使われるのはバイオリンやチェロに代表される擦弦楽器が代表格です。アコーディオンも演奏そのものが呼吸ですが、なんといってもチェロやバイオリンが主役でしょう。
音楽作品もある面で呼吸を元に書かれています。

そもそもこの世の現象は二面性、例えば光があれば影がある、息を吸えば吐かなければならない。全てそれに
よって成り立っているので当然とも言えますが、それが演奏に明確に現れるのが擦弦楽器なのです。

ちょっと待って!
管楽器は息を使って演奏するから管楽器の方が息と密接に関係しているのでは?
という声が聞こえてきそうですね。

しかし、よく管楽器の演奏を思い出してみてください。
管楽器の演奏で直接関係するのは呼気だけなのです。
つまり、息を吐くだけ。極端に言えば管楽器の吐く息はオルガンの「ふいご」のようなもの。別に無音の吸気が必要となります。希な例として息を吸って音が出る楽器もあります。ハーモニカです。しかし、ハーモニカの音は音楽の呼吸とは同調していません。つまり、音によって吸う息と吐く息とが決まっているのです。

弦楽器の演奏は音楽作品の呼吸の流れに密着して進行します。
しかも、呼吸がアップとダウンというように目に見える形で演奏します。
ですからアップとダウンは生命活動そのものだと言えるのです。その面から見ると弦楽器の演奏は人間的と言えるでしょう。
例えばオーケストラで皆に息を取ることによって合図を弓によって示したり、きっかけを与える仕事を任されているコンサートマスターがバイオリン奏者であることが良く理解できますね。

ですから、チェロを弾く時も、この箇所は今、息を吸っているのか吐いて安定しているのか、アップだからもっと緊張感がなければだめだ、ダウンだからもっと安定感が必要だ、などと吟味する必要があります。

最初にも言いましたが、物事は二面性で成り立っています。

弦楽器のアップは緊張。ダウンは緩和。あるいは、問と答え、等々。

これがもっとも理解しやすい形で演奏できるのが弦楽器です。
アップとダウンは単なる弓の往復運動ではないのです。