チェロ愛好家だけでなく、音楽愛好家の方ならもうご存知だと思いますが、去る7月25日、現代最高のチェリスト、アンナービルスマ氏が亡くなりました。85歳でした。
 
私が最初に彼のレコードを買ったのは、SEONから発売されたバッハの無伴奏チェロ組曲全集でした。あれは私がまだ20代後半の頃。
あれを聴いて私のバッハに対するイメージは180度ひっくり返ってしまったことをいまだに覚えています。とにかく衝撃的でした。
そのレコードの解説に書かれていたビルスマの言葉、「バッハは語る音楽であり、歌う音楽ではない。」
この言葉はその後、私がバッハだけでなく音楽をやる上において、私にとってひとつの指針となりました。
またそのレコードでは、バッハの無伴奏チェロ組曲は踊りの曲だということも知りました。それまでのバッハ無伴奏の演奏と言えば精神性ばかり追い求めるあまり、バッハと格闘するような重い演奏ばかりが主流でした。それをあっさり否定してくれたのがビルスマ。それは私にとってまさに衝撃でした。
 
その後、大阪で行われたコンサートも聴きに行きました。あの時はバッハとベートーベンの二夜連続コンサートでした。
ステージに小走りで登場し、椅子に腰掛けるや否や直ぐに弾きだす、あのひょうきんな姿は忘れられません。そして何より、プレーンガットの弦を張られたチェロとバロック弓で紡ぎ出されるあの豊かな音、あれはびっくりしました。
 
また彼は、バロックだけでなく全ての時代の音楽の演奏を膨大な量の録音で残していることでも知られています。
 
室内楽も沢山録音していますね。
 
私が聴いて最も感激したのは、シューベルトの弦楽五重奏曲ハ長調。
これはビルスマが第二チェロを弾いているのですが、その響きは甘くてまさに夢をみるよう。
シューベルトの響きを知りました。
同じくシューベルトのピアノトリオ集も素晴らしい!
 
このように彼は幸いにも沢山の録音を残してくれているお陰で、これからも私達に勉強のきっかけを与え続けてくれるでしょう。
 
ご冥福をお祈りします。
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