其ノ十五

さて次にチェロを選ぶ時、どんな音色の楽器を選べばよいか考えてみます。
これはプロとアマチュアの考えとは違うものがあって、なかなか一概には言えません。
しかし重要なこととして言えることは、その楽器を使う目的に合わせて選ばなければならないということです。
アマチュアの場合、個人で密かに楽しんだりアマチュアオーケストラで弾いたり、小さな集まりで楽しむということが多く、そこでまず大事なことは、そんなに苦労しなくても美しい音がする楽器を選ばなければならないということです。つまり耳障りではなく耳のそばで楽にむらなく美しい音が出ること。
1時間くらい引き込めばいい音が出る、それが良い楽器だという人もいますが、それではアマチュアには余りにも苦労が多過ぎます。ウルフトーン(表板と裏板の響き方の特性差による音の唸り。D線F#に出ることが多い)の強すぎる楽器もアマチュアの場合は避けるべきです。ウルフトーンが無い楽器(極稀にあります)は全体的に音がおとなしく個性が無くプロには向きません。
ウルフトーンを消す器具も売られていますが、これを着けると今までウルフトーンが無かった音にウルフが出ることが多いうえに音全体がおとなしくなる傾向があるので私はお勧めしません。

しかしいつ弾いても楽にいい音が出るというのはアマチュアにとって必要な条件です。

次にプロの演奏家が使うべき楽器について考えてみます。先程申し上げたアマチュアが楽しんで弾ける楽器では、グランドピアノとの共演やコンチェルトを弾く場合、どうしても負けてしまいます。
何故かというと、そのような耳当たりのいい楽器の音には高周波の音が少ししか含まれないため、耳のそばで柔らかく美しく感じるのです。オーケストラで弾いても音が周りとよく溶け合います。
高周波の音をふんだんに含む楽器の音は狭い部屋で弾いたり、耳のそばではジャリッとした硬い音がするものです。そのジャリジャリ音がその楽器の核となる音を遠くへと運んでくれるのです。一般的にそのような楽器はアマチュアには余りお勧めしません。
また核となる音がなく、ただジャリジャリ音だけの楽器もあります。これは“そば鳴り”といって安い中国製の楽器に多くみられます。ただうるさいだけで初心者がよくダマされます。私の生徒のなかにも過去にこういった楽器をネットで買ったという人がいました。結局買い直すはめになりお金の無駄です。
楽器を買うということは人生でも大きな買い物になるので慎重になり過ぎるということはありません。アマチュアの方は信頼のおける先生にます相談することをお勧めします。