其ノ三
弓の持ち方、続き
弓の持ち方、その次の方法は、フロッシュに親指を当てて構える奏法です。現在、この持ち方で弾いている人は、ほとんど見かけなくなりました。
持ち方を詳しく説明しますと、親指をフロッシュのくびれ部分に引っかけて持つのです。つまり弓をかなり端の方で持って弾く、ということになります。
結果として弓を持ったときの感覚は、弓全体がかなり重く、弓や腕全体が長く感じられます。
この持ち方の特徴として、フロッシュの太い部分を持つわけですから、力強く太い音が出しやすい、ということが上げられます。
欠点は、弓の端っこを持つわけですから、どうしても弓をしっかりと握らなければならず、親指が疲れやすく、手首が固くなり、手首や指のしなやかな動きが阻害され、弓の小回りが利きにくく、動きが制限されやすい、ということになります。私達より上の世代のチェリストは、この持ち方で弾いてる人が多かったです。また私も最初はこの持ち方で習いました。オーケストラのオーディションを受ける少し前から、一般的な持ち方に直しました。
故斎藤秀雄氏も、このフロッシュを持つ方法で弾いていたそうです。当然彼の師匠であるフォイアーマンもこの奏法だったといいます。フォイアーマンの録音は数が少ないながら残っていますが、どれを聞いても名演です。やはりあの力強い音色はフロッシュを持って弾いた独特の音なのでしょう。幾分無骨でありながら、力強い音の塊というか鋼のような音圧が感じられ、圧倒的な存在感があります。今私達が聞く一般的なチェロの音とはかなりの差があります。力強い中にも、とても細かいニュアンスを自由に操り、やはり大天才だと思います。
今はフランスやベルギーの流麗なチェロ奏法が世界の主流ですが、昔の日本、特に戦後まではクラシック音楽はドイツ音楽一辺倒でした。誰もが奏法もドイツを見習ったのです。私が初めに習った先生方も、もろにドイツ的な弾き方を身につけ活動されてきたのです。
フォイアーマンの演奏はいかにもドイツ的で個性的ですが、私など、すごく憧れを感じます。
こんな演奏するチェリストなど、現在どこにもいませんね。というか、誰も真似ができないということでもあるでしょう。伝統が途絶えたとも言えるかも知れません。
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