◎“エーッ! バイオリンでっか?”

音楽高校ではフルートやピアノの専門的な教育を受けてきた私は、それらのレッスンをすることには特別問題はないのですが、バイオリンは全く未知の楽器です。
弾いたことがありません。さて、どうしましょう!まさに、エーッ!と言いたい気持ちでしたが、引き受けた以上やるしかありません。
教室は新たにルナ・クレセンテという名前で震災の三宮の街で発足されました。
これからが大変です。幸いにも弦楽器製作家の山本さんからバイオリンを一丁借りることが出来ました。そして早速バイオリンの練習を始めたのです。
バイオリンがチェロと兄弟の楽器だと理屈では分かっているのですが、肩に構えることはなかなか上手くいきません。
しかし、カイザーやセブシークの教則本をやっていくうち、次第にバイオリンにも慣れてきました。
その時バイオリンは音階を弾く場合、どの調でもポジションを頻繁に変えずに弾けるのでチェロに比べて楽な面もあることに気がついたのです。したがって1stポジションだけでもある程度の曲が弾けます。
その点チェロは1stポジションだけでは弾ける曲にかなり限界があります。生徒の皆には早くいろんな曲を弾いて欲しいので、チェロでは早いうちから1st以外のポジションを練習していただいてます。
バイオリンのレッスンでは教えることとこちらが勉強することとが同時に進行しました。小さい子供を教える時は頭を冷静に、筋道立てて教えることが必要で、その点、教えられました。
私の場合、教える時の表現の仕方は子供向きなのですが教える内容は大人と変わりません。一般的に子供に対しては内容も幼稚になってしまいがちですが、芸術をやる上で内容が幼稚だと、いくら相手が幼児子供でもすぐ見透かされてしまいます。すぐに飽きてしまうのです。つまり、例えカエルの合唱やキラキラ星であっても芸術性豊かに弾かせること。曲ではなく、教える内容が大切なのです。その時、子供でも音楽的に美しく弾けば嬉しく、喜びを表情で返してくれます。その時はこちらもやってて良かったと思える瞬間でした。
バイオリンの生徒はチェロとくらべて小さい子が多いので、言葉の使い方や接し方などとても勉強になりました。大人のように察してくれるということがない分、説明の仕方が難しいのです。
とにかく必死で教えました。
苦しかったけど、それは今の自分に活かされているので、結果として貴重な時代であったと、今になって感じます。