◎2 第九の雰囲気
私にとって第九は最初のオーケストラ時代から思い起こしてみても、もう数え切れない数にのぼるでしょう。こんな曲は他にはありません。たとえ“運命や新世界”などと比べてもここまでの数には至らないでしょう。
しかし第九には特別な雰囲気があります。祝典的と言ってもいいような厳かさが必ず伴うのです。いくら沢山弾いてきたからといっても決してマンネリにはならず、弾く度に新たな感動を覚えるのは凄いという他ありません。そんな曲第九以外にありません。
弾く方も他にはない凄まじい緊張を伴います。
弾く度に緊張を強いられるのはベートーベンの音楽すべてに言えることで演奏する者に絶対油断を与えない。言いかえれば演奏者を飽きさせないとでもいうか、ある種、魔術のようなものを感じさせます。しかし音楽が第四楽章の前半レシタティーフに続く歓喜のテーマが盛り上がる所まで来ると、本当に自分がチェロ弾きであって良かった幸せだと思う瞬間でもあるのです。
それがたとえ良くない伝統に基づく演奏であっても、ベートーベンの凄さは色あせることなく演奏者や聴衆に伝わり、感激させます。やはりそれはベートーベンの包容力の大きさでしょう。
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