其ノ三

ヴィブラートには以上のような発展の経緯があるため、かける部分や種類はしっかりわきまえてかけるようにしなければなりません。音楽的なセンスを養うのが先決とも言えます。

では理想的なヴィブラートとはどんなものでしょうか。

ヴィブラートには大きく分けて三通りのかけ方があります。
一つ目は音の大小(音圧の強弱)でかける方法。これは管楽器で多く用いられます。
二つ目は音程の上下でかける方法。これは弦楽器のヴィブラートです。例外的に金管楽器のトロンボーンでも用いられます。
三つ目は、それらの混合型。歌がそうです。
それでは理想的なチェロのヴィブラート、つまり二つ目のヴィブラートについてお話ししましょう。

よくチェロはバイオリンに比べて左手が自由なために、バイオリンよりもヴィブラートがかけやすいと言われます。しかし、かけやすさゆえの陥りやすい問題は確実にあります。
それは、どんなものか、実験してみましょう。まず、正しい音(今まさに出そうとしている音)を中心として、高めの音と低めの音に、ゆったりとしたヴィブラートをかけます。なお、バイオリンの場合、構え方による制限があるため、高音側にかけるのはとても困難(不可能に近い)です。チェロはその点、自由自在、高音側にも低音側にもかかります(ただしチェロ独特の構え方のため、第6以上の中高ポジションでは高音側にはかかりません)。しかし、それがチェロのヴィブラートにとっては最大の欠陥となります。

実験に際しては、正しい音程のツボは絶対ズレないように気をつけます。
各弦、ヴィブラートがかかりやすい指でやってみましょう。
第2ポジションの2の指がかかりやすいかも知れません。
自分の音をよく聴いてみて下さい。

わかりましたか?

高音側と低音側両方にかけた時、人の耳は奇妙な反応を示します。

そうです。
つまり、ヴィブラートをかけた時、高めの音がまず耳につくはずです。次に正しい音が聞こえます。その時、低めの音はほとんど聞こえません。
ヴィブラートのような音に動き(唸りのような振動)がある時、人の耳は必ず高い音に反応するのです。
その結果、演奏で高音側にヴィブラートをかけた場合、どのようなことが起こるでしょうか?

正しい音程を取っているにも関わらず、高音側ばかりが目立ってしまうため音は上ずり、不安定で、聞いた感じとても厭味がある下品な音に聞こえてしまいます。いうならば下手くそな演歌状態。音の根幹がずれて聞こえるのです。
反対に低音側に(低音領域で)かけてやると、正しいツボにあたる音(出そうとする音程)が最も目立って聞こえるため、音が上ずって聞こえてしまう、ということなど無くなるのです。そしてヴィブラートそのものも目立たなくなりなります。
ヴィブラートは正しい音を中心として低音側(低音領域)でかけなければならない、ということがお分かりいただけたと思います。正しくかけた場合、結果として、上手な管楽器奏者が出すような、安定した太い音が得られるはずです。

正しいヴィブラートをかけるために必要で具体的な左手の動かし方については、次回に説明します。

つづく